府中市内にあるパブリックアートをご紹介しているこのシリーズも、今回で14回目となりました。
今回ご紹介するのは、府中市武蔵台にある武蔵台公園に設置されている「夏引(なつひき)」という作品です。
作品を見てまず目に入るのは、どっしりとした大きな牛の姿です。
かなり重厚感のある作品なのですが、よく見ると牛の表情、特に目元がとても優しいです。迫力がありながら、どこか穏やかで親しみを感じる、不思議な雰囲気があります。

「夏引」は、彫刻家の下川昭宣(しもかわ あきのぶ)さんによる作品です。1999年に設置され、材質には黒御影石が使われています。
黒御影石という硬くて重い石から作られているため、牛の力強さがしっかり表現されている一方で、表面の丸みや滑らかな形のおかげでしょうか、冷たい石という感じはあまりしません。
むしろ、静かに公園の中で休んでいる牛を見ているような気持ちになります。
ところで、ちょっと気になるのが「夏引」という作品名です。
私は最初、「夏に牛が何かを引いているのかな?」くらいに思っていましたが、調べてみると全く違いました。
「夏引」とは、もともと夏になってから春蚕(はるご)の繭から糸を繰り引くことを意味する言葉だそうです。
そして、この作品ではさらに、七夕でおなじみの織女と牽牛の物語を暗示していると考えられています。
なるほど、「牽牛」の“牛”だったんですね。
そう思って改めて作品を見ると、ただ牛を表現した彫刻というだけではなく、七夕の物語まで想像が広がっていきます。
作品名の意味を知る前と知った後では、ちょっと見え方が変わるが面白いところです。
石ならではの牛の姿
作者の下川昭宣さんは動物を題材にした作品を数多く発表されていて、石そのものの質感を生かした、シンプルな造形表現を得意とされているそうです。
「夏引」も細かいところまでリアルに作り込むというより、牛の大きな体や丸み、存在感を石の形を生かしながら表現しているように感じます。
少し離れて見ると大きな石の塊のようにも見えますが、近づいてみると、ちゃんと牛の表情が見えてきます。
特に優しい目を見ていると、なんだかこちらまで落ち着いた気分になります。
武蔵台公園で探してみてください
「夏引」があるのは、府中市武蔵台2丁目2番地の武蔵台公園です。
府中市のパブリックアートというと、駅の近くや大きな施設の前にある作品を想像しますが、公園の中にこうした作品が置かれているのもいいですね。
公園の風景の中に大きな牛が静かに佇んでいる姿は、なかなか存在感があります。
府中市には「彫刻のあるまちづくり事業」で設置された17基の彫刻作品があり、「夏引」はその14番目として紹介されています。
残すところ、このシリーズもあと少し。
今まで巡ってきた作品を振り返ってみても、人物や動物、抽象的な作品など、本当にいろいろな彫刻が府中の街にあるものだと改めて感じます。
武蔵台方面へ行かれる機会がありましたら、ぜひ武蔵台公園の「夏引」も探してみてください。
大きな牛の優しい目と、作品名に隠された七夕の物語。
意味を知ってから眺めてみると、また違った楽しみ方ができる作品だと思います。
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